大阪天満宮奉納連歌会  
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令和五年六月七日
第九回・大阪天満宮奉納連歌会
 於 大阪天満宮参集殿

初表
発句   神々も待ちわびにけり花火空(種治)
脇      千古の夢を馳せる船渡御(清實)
第三   川波の威勢にしばし驚きて(修三)
四句     頼政鼓舞す先駆けの軍(建夫)
五句   月浴びて二羽の鳳凰黙したり(浩)
六句     秋冷の手に十円銅貨(貴代美)
初裏
初句   赤電話母の栗飯食いたくて(春雄)
二句     レトルト好きの青い眼の妻(俊平)
三句   会うたびにアイラブユーと言われたり(利枝)
四句     花園神社の夜の抱擁(奈緒美)
五句   懐かしの昭和に思うことありて(順子)
六句     茶の間に響くボンボン時計(原野久仁子)
七句   手に取った月見団子をまた戻し(光)
八句     ヘモグロビンA1Cの秋(保)
九句   肌寒の待合室に父がいて(和子)
十句     バツ二で帰る故郷の駅(幸一)
十一句  狂おしく乱れ乱れて桜舞う(豊次)
十二句   観音おわす三井寺の春(文男)
名残表
初句   見渡せば遥かにかすむ琵琶の湖(繁治)
二句    ゆくは細香別れ舟かや(青隴)
三句   ひたすらに我も恋せし世を生きて(貴代美)
四句    喝采という歌声悲し(文男)
五句   紅のロングドレスの華やかに(建夫)
六句    鹿鳴館は今日もくれゆく(修三)
七句   夜会巻き赤坂芸者もあこがれて(原野久仁子)
八句    祖母の写真の色褪せにけり(順子)
九句   線香のかすかに香る秋彼岸(繁治)
十句    庭の片隅鉦叩き鳴く(俊平)
十一句 望月をあつく見つめるレズ二人(春雄)
十二句  妬むまなざし男ありけり(修三)
名残裏
初句   ここ掘れと犬が知らすや宝物(俊平)
二句    昨日の明日は今日の夢にて(修三)
三句   松の木に座禅を組みし明恵かな(建夫)
四句    清滝川の春のきらめき(修三)
五句   一陣の風にゆらめく花の雲(文男)
挙句    霞のむこうアベノハルカス(順子)

句上 寺井種治(客・1) 今枝清實(世話人・1) 高城修三(宗匠・5) 村上建夫(3) 府川浩(1) 城貴代美(2) 廣瀬春雄(2) 竹本俊平(3) 上羽利枝(1) 井下奈緒美(1) 山田順子(執筆・3) 原野久仁子(2) 井下光(1) 河内保(1) 友永和子(1) 森幸一(1) 家村豊次(1) 奥村文男(3) 杉田繁治(2) 廣青隴(朗詠・1) 

今回の奉納連歌は四年ぶりの座の連歌となりました。ようやくコロナ禍を脱し、廣青隴の朗詠奉納もいただけて、本格的に連歌ができる状態が整って参りました。梅雨最中の五月晴れも幸運でした。

令和四年六月二日
第八回・大阪天満宮奉納連歌
 於 大阪天満宮参集殿

初表
発句   疫病にも梅の青葉は色変えず(種治)
脇      西翁偲び鳴くほととぎす(清實)
第三   難波より京江戸までも聞こゆらん(修三)
四句     鵜殿過ぎればくらわんか船(光)
五句   あかあかと行手を照らす月の影(貴代美)
六句     粘菌探す秋の熊楠(順子)
初裏
初句   そぞろ寒いつも褌一つなり(利枝)
二句     それでもやはり恋しています(奈緒美)
三句   鉄格子明日もなき身に文の束(建夫)
四句     老いたる母の悲しみ重ね(繁治)
五句   無謀なる遊覧船の沈む海(浩)
六句     凍てる知床魂いずこ(豊次)
七句   冬の月森繁久弥はみまかれり(幸一)
八句     てんやわんやの三等重役(和子)
九句   今日新地明日は祇園か赤阪か(文男)
十句     春の襲名挨拶回り(保)
十一句  花万朶我が行く道に試練あれ(春雄)
十二句   陽炎のなか猫あくびする(純子)
名残表
初句   庭先に撃ち捨てられしカラシニコフ(俊平)
二句    木切れを組みて八端十字(久仁子)
三句   黒土いく老婆の足はおぼつかず(正子)
四句    肩を覆いし黄色きスカーフ(貴代美)
五句   さつき野を吹き流したるハーモニカ(清實)
六句    君と別れて七年余り(修三)
七句   今はただうらみつらみも消え失せて(貴代美)
八句    天神様に祈る毎日(修三)
九句   宮人の沓音高し石畳(等)
十句    永遠なれと飛鳥の都(修三)
十一句  変らぬは甘樫丘にのぼる月(順子)
十二句   金木犀のふと匂いくる(利枝)
名残裏
初句   つれづれの犬の散歩の朝の秋(建夫)
二句    マスクを着けぬ人に出会って(修三)
三句   コロナ禍にこの非国民と怒鳴りつけ(繁治)
四句    自転車こいで春の大川(清實)
五句   今年また造幣局の花ざかり(修三)
挙句    生駒の山はかすみに暮れて(幸一)

句上 寺井種治(客・1) 今枝清實(世話人・3) 高城修三(宗匠・6) 井下光(1) 城貴代美(3) 山田順子(執筆・2) 上羽利枝(2) 井下奈緒美(1) 村上建夫(2) 杉田繁治(2) 府川浩(1) 家村豊次(1) 森幸一(2) 友永和子(1) 奥村文男(1) 河内保(1) 廣瀬春雄(1) 嶋岡純子(1) 竹本俊平(1) 原野久仁子(1) 前田正子(1) 柳野等(1)



令和三年九月十七日
第七回・大阪天満宮奉納連歌
  文音

初表
発句   長き夜も平穏しき御代を祈りけり(種治)
脇      笛の音幽か秋思の祭(清實)
第三   肌寒の驕りの街を抜け出して(修三)
四句    ただひたすらに哲学の道(浩)
五句   コロナ禍に何の益ある冬の月(和子)
六句    久松留守と門口の札(建夫)
初裏
初句   恋日傘軽く回して下駄の音(貴代美)
二句    京の色町夏午後三時(純子)
三句   これがまあ夕べの夢の捨てどころ(繁治)
四句    赤いポストが何か言いたげ(利枝)
五句   すぐそばに電信柱そびえたち(順子)
六句    秋をたずねて豊浦の里(光)
七句   甘樫の丘にのぼりし月さやか(奈緒美)
八句    蘇我入鹿の袖にコオロギ(幸一)
九句   店ざらしお軸のしみもひどくなり(文男)
十句    形見の時計に春の夕焼け(正子)
十一句  還らざる知覧の空へ花吹雪(壊殻)
十二句   なべては夢ぞ東風の吹きくる(久仁子)
名残表
初句   閑古鳥ミッキーマウスの憂え顔(正明)
二句    何はともあれ早もう秋(和子)
三句   信太なる野路を行けば葛の風(清實)
四句    月無き宵に遊里めざして(貴代美)
五句   身請けする銀二貫目を懐に(建夫)
六句    丸竹夷子らの歌声(春雄)
七句   南北を上る下ると言いにけり(正子)
八句    いずれにころぶ四谷怪談(純子)
九句   墓前にて興行祈願す玉三郎(久仁子)
十句    カラス静かに見守っており(繁治)
十一句  ゴミの日に仔連れの猫は身を隠し(浩)
十二句   お稽古後の二階の座敷(文男)
名残裏
初句   舞扇仕舞いて弾む笑い声(幸一)
二句    石畳賭けゆく人力車(壊殻)
三句   十八のいなせな法被になごり雪(光)
四句    大川べりは草萌え盛り(利枝)
五句   待ちかねの通り抜けへと花の狩(奈緒美)
挙句    木漏れ陽うらら世は事もなし(順子)

句上 寺井種治(客・1) 今枝清實(世話人・2) 高城修三(宗匠・1) 府川浩(2) 友永和子(2) 村上建夫(2) 城貴代美(2) 嶋岡純子(2) 杉田繁治(2) 上羽利枝(2) 山田順子(2) 井下光(2) 井下奈緒美(2) 森幸一(2) 奥村文男(2) 前田正子(2) 豊澤壊殻(2) 原野久仁子(2) 真田正明(1) 

前回に続いて文音での興行となり、十月十七日大阪天満宮に奉納いたしました。

令和二年六月吉日
第六回・大阪天満宮奉納連歌
  コロナウィルス退散祈願

初表
発句   談林の梅も撓わにみのりけり(修三)
脇      翁媼見えぬ天神の夏(清實)
第三   唐突にサイレンの音とどまりて(貴代美)
四句     時を吸い込む真青な空(順子)
五句   やがてまた月の都に帰るらむ(文男)
六句     裳裾を濡らす白萩の露(保)
初裏
初句   肌寒に百夜の君を待ちわびて(和子)
二句     九十九の恋の榧の実(満里子)
三句   薫れどももぬけの殻の夏の床(建夫)
四句     現か夢か蝉のさわがし(幸一)
五句   語り部が声を絞れり田原坂(由紀江)
六句     城を眺めて無念の涙(哲哉)
七句   刃傷は短気の故と春の月(由美子)
八句     一力茶屋に山吹の咲く(利枝)
九句   碧い目のカメラの先の庭うらら(奈緒美)
十句     白壁のすそ丸まる子猫(光)
十一句  静かなり花満開のねねの道(繁治)
十二句   雲水ひとり石畳行く(るみ子)
名残表
初句   しぐるるも酒を買いにとやれ草履(哲也)
二句    縞の財布になけなしの銭(俊平)
三句   ふと聞こゆお初の声が忍び泣く(青隴)
四句    怨みのみこむ曽根崎新地(春雄)
五句   胸元の契りのタトゥー艶やかに(啓二朗)
六句    生れし蝶消ゆ薄紅もりへ(和代)
七句   一歩づつ風をたよりに遍路杖(壊殻)
八句    門に札あり「来るなWe留守」(英一)
九句   吾備丸は特効薬に御座候(浩)
十句    道修町にも秋の夕暮れ(正子)
十一句  月見ばや力なき身を横たえて(水澄子)
十二句   草の枕に鳴くきりぎりす(七重)
名残裏
初句   無惨やなこの天蓋にひとりきり(久仁子)
二句     落武者狩りの小栗栖に果つ(葵)
三句   しらじらと味土野の里に雨の降る(純子)
四句    如何に逢い見ん来年の春(良典)
五句   花万朶塔は緑の仁王立ち(正明)
挙句    のどかに響くカバの鳴き声(雅晴)

句上  高城修三(宗匠) 今枝清實(世話人) 城貴代美 山田順子(執筆) 奥村文男 河内保 友永和子 奥山満里子 村上建夫 森幸一 小堀由紀江 田中哲哉 田中由美子 上羽利枝 井下奈緒美 井下光 杉田繁治 中川るみ子 安田哲也 竹本俊平 廣青隴  廣瀬春雄 松本啓二朗 今野和代 豊澤壊殻 土井英一 府川浩 前田正子 岩佐水澄子 下石坂七重 原野久仁子 横山葵 嶋岡純子 白井良典 真田正明 榊原雅晴

今回の大阪天満宮奉納連歌はコロナウィルスのパンでミックの最中、文音にてコロナウィルス19退散祈願連歌として興行いたしました。一人一句三十六名の連衆の祈願が一日も早く成就することを祈って止みません。  





令和元年六月六日
第五回・大阪天満宮奉納連歌
 於 参集殿

初表
発句   五月雨に梅の瑞枝も色はえて(種治)
脇      令和寿ぐ天神の夏(清實)
第三   良き事を連ね浪速も沸きぬらん(修三)
四句    夢を見ながら玉兎舞いたり(建夫)
五句   澤瀉屋秋興行に声の飛ぶ(和子)
六句    船弁慶はゆるり現る(豊次)
初裏
初句   菩提樹の数珠をからめてかき鳴らし(哲也)
二句    恨みの冬は生霊となり(貴代美)
三句   御簾のかげ愛しき君は浮気者(るみ子)
四句    そろりそろりと朝別れゆく(久子)
五句   やや寒の京都中京糸屋町(満里子)
六句    虫の声聞く仕舞屋の奥(美佐子)
七句   老いらくの再起の杯に揺れる月(青
八句    昭和歌謡が鼻歌に出て(由紀江)
九句   そこどけと三種の神器やってくる(順子)
十句    ここは伊都国平原遺跡(利枝)
十一句  歴女らが往時をしのぶ花の宴(哲哉)
十二句   のどかな午後におしゃべりはずむ(幸一)
名残表
初句   広縁で春日浴びつつ猫もいて(清實)
二句    江戸表より早馬の着く(由紀江)
三句   殿様は将軍様になりにけり(修三)
四句    お玉の生みし学問好み(建夫)
五句   細川の血を絶やすまじ関が原(哲也)
六句    空見上ぐれば彩雲のあり(順子)
七句   夏の日の諏訪の大社に急ぐ旅(修三)
八句    大樹のかげに蝉時雨ふる(文男)
九句   抱き合えば君の鼓動が伝わりぬ(貴代美)
十句    たった一度の文のやりとり(修三)
十一句 袖とりてまた会い見んと望の月(等)
十二句  石塀小路に萩の乱るる(貴代美)
名残裏
初句   新酒出す茶店の奥に連歌堂(満里子)
二句    レンタル着物着た人多し(繁治)
三句   外つ国の言葉さわがしカウンター(浩)
四句    あれもこれもとみんな忘れて(修三)
五句   満開の花に酔いたしこの夕べ(文男)
挙句    おぼろおぼろに一日を過ごす(久仁子)

句上  寺井種治(客・1) 今枝清實(世話人・2) 高城修三(宗匠・5) 村上建夫(2) 友永和子(1) 家村豊次(1) 安田哲也(2) 城貴代美(3) 中川るみ子(1) 飛田久子(1) 奥山満里子(三具足・2) 八ツ尾美佐子(1) 廣青隴(朗詠・1)小堀由紀江(2) 山田順子(執筆・2) 上羽利枝(1) 田中哲哉(1) 森幸一(1) 奥村文男(2) 柳野等(1) 杉田繁治(1) 府川浩(1) 廣久仁子(1)

新たに天満宮宮司に任官された寺井種治さまに発句をお願いして令和最初の奉納連歌となりました。例年通り、廣青隴先生の朗詠奉納のあと記念撮影、そのあと茂楽樹にて竟宴となりました。




 平成三十年六月六日
第四回・大阪天満宮奉納連歌
   於 参集殿

初表
発句   青梅に笑顔を寄せる夫婦かな(繁治)
脇      天神祭を重ね六十年(清實)
第三   如何せん世間のことは打ち捨てて(修三)
四句    手甲脚絆に振り分け荷物(順子)
五句   松並木つづく清水の昼の月(千代)
六句    忘れ扇を開きし童女(貴代美)
初裏
初句   秋深み子供浄瑠璃声高く(由紀江)
二句    言葉巧みに恋の謎かけ(利枝)
三句   告げ口に恨みつのらせ夜もすがら(和子)
四句    最後の手紙緑のインク(保)
五句   ベルリンの鷲の紋章仰ぎ見る(建夫)
六句    つわものどもは汗ばむばかり(豊次)
七句   月煙り野望の行方本能寺(幸雄)
八句    大河ドラマに麒麟が来たる(満里子)
九句   丹波路に春の嵐が吹き抜けて(葵)
十句    農夫黙して畠起こすなり(春雄)
十一句  かにかくも今宵は花の連歌会(青隴)
十二句   いまやむかしの財閥屋敷(正子)
名残表
初句   ガラス越し光悦茶碗おさまりぬ(建夫)
二句    桁間違える恥の酔客(文男)
三句   算盤を弾き直して知らぬ顔(満里子)
四句    身請け話は夢のまた夢(清實)
五句   大門を紅あざやかに八文字(貴代美)
六句    黒揚羽蝶つかずはなれず(利枝)
七句   去年の夏友がみまかる夕まぐれ(修三)
八句    形見の酒盃ぐっと飲み干す(文男)
九句   にらみたる底には鬼の面があり(建夫)
十句    黍団子のせ宿のもてなし(満里子)
十一句  方谷を訪ねきたりて望の月(貴代美)
十二句   屯田制を定めたる秋(修三)
名残裏
初句   日の本はまことうるわし秋津飛ぶ(貴代美)
二句    神武東征ここになるなり(修三)
三句   寄り集うカラスにトンビ寿ぎし(建夫)
四句    鴨の河原ののどかなる午後(修三)
五句   水面にはどこもかしこも花筏(千代)
挙句    空にただよう一ひらの雲(哲哉)

句上  杉田繁治(客・1) 今枝清實(世話人・2) 高城修三(宗匠・5) 山田順子(執筆・1)岡部千代(2)城貴代美(4)小堀由紀江(1)上羽利枝(2)友永和子(1)河内保(1) 村上建夫(4)家村豊次(1)鈴木幸雄(1)奥山満里子(三具足・3) 横山葵(1)廣瀬春雄(1)廣青隴(朗詠・1)前田正子(1)奥村文男(2)田中哲哉 廣久仁子    森幸一   安田哲也  八ツ尾美佐子    柳野等 中川るみ子

関西にも梅雨入りが宣言された雨模様の中、大阪天満宮境内の青梅も大きく膨らんでいました。今年で平成も最後となる四回目の大阪天満宮奉納連歌では、客としてお招きした杉田繁治先生にいただいた発句以下何とか三十六句を巻き上げました。お軸は昨年と同じものが飾られました。三具足は奥山満里子氏にお願いし、花は瑠璃虎の尾の一輪挿しとなりました。また廣青隴先生の朗詠奉納も例年通りつつがなく執り行われ、茂楽樹にて竟宴となりました。



 平成二十九年六月七日
第三回・大阪天満宮奉納連歌
   於 参集殿

初表
発句    棟高し催太鼓のためし打ち(直樹)
脇       掛け声飛んで繁く夏足袋(清實)
第三    目のかぎり姫街道を行き行きて(修三)
四句      峠登ればぽっかりと雲(水澄子)
五句    ひそやかに棚田に映る昼の月(繁治)
六句      新蕎麦すする広縁の父(貴代美)
初裏
初句    露分けて昔富山の薬売り(由紀江)
二句      行く先々に恋を咲かせて(順子)
三句    待ち遠し次の逢瀬の一年後(哲哉)
四句      年季あく日の祝言約す(建夫)
五句    しんしんと雪降りしきる道修町(和子)
六句      虎が首ふる笹の葉ゆれる(俊平)
七句    月の下若冲の軸値踏みして(純子)
八句      擣衣の音の遠ひびきする(葵)
九句    筝曲に漢城の秋の夕まぐれ(満里子)
十句      さじ投げて去る福沢諭吉(久子)
十一句  花吹雪地蔵と昼餉分かちあう(青隴)
十二句    美浜の海にかすむさざなみ(るみ子)
名残表
初句    目に見えぬ恐怖をかかえ春のくれ(純子)
二句      雷鳴ひびき屋根かける鵺(哲也)
三句    南無南無と蔀戸もるるおみな声(貴代美)
四句      君の葬儀に帰るふるさと(千代)
五句    母からの見合写真をふところに(哲也)
六句      山茶花の白婚くいぬなり(葵)
七句    赤飯に老いのそくさい祝う朝(満里子)
八句      今日こそ達成エイジシュートを(幸雄)
九句    ゼグシオもコース移動は杖にして(哲也)
十句      二百十日のなまぬるき風(由紀江)
十一句  望月にかかる叢雲払いおり(建夫)
十二句    夜寒に逃げる宝石泥棒(るみ子)
名残裏
初句   いつの世も悪い奴ほど親思い(純子)
二句     教科書通りいかぬが世間(俊平)
三句   官僚は忖度するが仕事なり(修三)
四句     霞が関のうららかな日々(幸一)
五句   人は皆花の命をいとおしみ(貴代美)
挙句     万物すべてうるわしき春(利枝)

句上 谷直樹(客・1) 今枝清實(世話人・1) 高城修三(宗匠・2) 岩佐水澄子(1) 杉田繁治(1) 城貴代美(3) 小堀由紀江(2) 山田順子(執筆・1) 田中哲哉(1) 村上建夫(2) 友永和子(1) 竹本俊平(2) 嶋岡純子(3) 横山葵(2) 奥山満里子(花香・2) 飛田久子(1) 廣青隴(朗詠・1) 中川るみ子(2) 安田哲也(3) 岡部千代(1) 鈴木幸雄(1) 森幸一(1) 上羽利枝(1) 今野和代 廣久仁子 八ツ尾美佐子 柳野等 

梅雨の走りとなった小雨が降る中、第三回大阪天満宮奉納連歌会がにぎにぎしく興行されました。床のしつらえは御水尾天皇の天神神号ならびに菅丞相直筆と伝わる短冊を付した天神画像、花菖蒲の一輪挿し、香は初め沈香と匂いの花に伽羅を使いました。廣青隴氏の朗詠奉納のあと記念写真をとり、例年のとおり茂楽樹にて竟宴となりました。



平成二十八年六月三日

第二回・大阪天満宮奉納連歌

  於 参集殿

 

初表

発句  廣前の梅色づくや翁偲ぶ(晴子)

脇    向栄庵に鳴く不如帰(清實)

第三  いざ江戸へ芭蕉扇を腰に差し(修三)

四句   錦の御旗風あらたなり(政俊)

五句  紅白の獅子のはざまに朧月(建夫)

六句   春を寿ぐ檜の舞台(貴代美)

初裏

初句  中村屋大向うから声かかる(和子)

二句   誰にも知られず手に手を重ね(平)

三句  老いらくの伝えきれないこの思い(るみ子)

四句   越山会の一途なる恋(幸一)

五句  牝鶏の晨に迷う天下人(文男)

六句   寝たふり破る娘の一喝(真理子)

七句  見上ぐれば花札のごと山の月(水澄子)

八句   うなる剛腕懺悔する秋(浩)

九句  肌寒に思い出すのは母のこと(満里子)

十句   疲れた時にほっこりと言う(繁治)

十一句 物憂げに桜吹雪にたたずみて(哲哉)

十二句  霞に浮かぶ阿蘇の連山(千代)

名表

初句  襖絵に蝶の一匹とまりおり(利枝)

二句   孫が袖振り目を輝かせ(純代)

三句  我先にじいじの土産つかみあい(美佐子)

四句   瀬戸内海の猫多き島(由紀江)

五句  スクラップ巨大な魚に変身し(和子)

六句   ダブルベッドで夢から醒めて(貴代美)

七句  右腕に残る重みの君はなき(美佐子)

八句   左に寄せる新しき妻(建夫)

九句  古畳たたき鐘聴く百八つ(真理子)

十句   銭は無けれど楽しき浮世(貴代美)

十一句 盃にうく酒の肴の望の月(俊平)

十二句  しじまを破りむくどりの鳴く(順子)

名裏

初句  冷え冷えと西行橋の西のつめ(修三)

二句   嵯峨野歩きを友とそぞろに(純代)

三句  浴衣着る外国人が闊歩して(美佐子)

四句   石仏たちは肩をすくめる(幸一)

五句  峠道花吹き散らすつむじ風(俊平)

挙句   蛍の光歌う分校(水澄子)


句上              

近江晴子(1) 奥村文男(1) 渡邊美佐子(3)

今枝清實(1) 藤本真理子(2)小堀由紀江(1)

高城修三(2) 岩佐水澄子(2)竹本俊平(2)

村上政俊(1) 府川 浩(1) 山田順子(1)

村上建夫(2) 奥山満里子(1)大城千鶴子

城貴代美(3) 杉田繁治(1) 勝井景介

友永和子(2) 田中哲哉(1) 黒住寛治

石 平 (1) 岡部千代(1) 長尾眞知子

中川るみ子(1)上羽利枝(1) 廣瀬春雄

森 幸一(2) 高見純代(2) 八ツ尾美佐子

                        柳野等



  平成二十七年六月一日
第一回・大阪天満宮奉納連歌
    於 参集殿

初表

発句  御神幸や神霊移御も粛粛と(種伯)

脇    ここは談林青葉の袂(清實)

第三  さればこそ天下の風も吹き寄せて(修三)

四句   扇かざせし武士の秋(貴代美)

五句  すみわたる月下の橋を吟じ行く(青隴)

六句   さくら紅葉の祇園新橋(久子)

初裏

初句  早朝の辰巳稲荷に手をあわす(晴之)

二句   きぬぎぬなるも影身添わせよ(真理子)

三句  あなたには一夜なれども我一世(順子)

四句   柳行李に凍てるさやまき(由紀江)

五句  軽トラで明日はどこへと旅芝居(俊平)

六句   出石の宿で皿蕎麦五枚(建夫)

七句  見上ぐれば天の日矛の青き月(満里子)

八句   知るや知らぬや稲穂は稔る(和子)

九句  秋津島よくぞ男に生まれけり(文男)

十句   我は我なり人は人なれ(豊次)

十一句 花吹雪高野聖の道急ぐ(繁治)

十二句  かこち顔なる春の吐息よ(こん)

名残表

初句  のどかなる日中に聞こゆ三味の音(利枝)

二句   四畳半には香をたきしめ(貴代美)

三句  床の間の妻恋い慕うかきつばた(満里子)

四句   幽世までも思い届けよ(等)

五句  遙かなる安達太良山の大き空(七重)

六句   仰いだ顔に涙ひとすじ(渡邊美佐子)

七句  幼子を残した家は振り向かず(真理子)

八句   着の身着のまま引揚船に(俊平)

九句  海鳥がいっせいに翔つ夕埠頭(貴代美)

十句   踊り子マリの赤きドレスよ(こん)

十一句 地の果てのカスバの月に照らされて(繁治)

十二句  ガラスの杯に濁酒注ぎぬ(貴代美)

名残裏

初句  永き夜に三島由紀夫の高笑い(修三)

二句   鹿鳴館は晴れやかに幕(保)

三句  セピア色写真に残る明治かな(清實)

四句   産業遺産の記憶おぼろに(修三)

五句  咲き誇る今年も花の通り抜け(渡邊美佐子)

挙句   菅相承も春を寿ぐ(千代)

 

句上 

寺井種伯(客・1)   家村豊次(1)

今枝清實(世話人・2) 杉田繁治(2)

高城修三(宗匠・3)  今野和代(2)

城貴代美(4)     上羽利枝(1)

廣 青隴(朗詠・1)  柳野 等(1)

飛田久子(1)     下石坂七重(1)

中條晴之(1)     渡邊美佐子(2)

藤本真理子(2)    河内 保(1)

山田順子(執筆・1)  岡部千代(1)

小堀由紀江(1)    黒住莞爾

竹本俊平(2)     田中哲哉

村上建夫(1)     廣久仁子

奥山満里子(2)    前田正子

友永和子(1)     八ツ尾美佐子

奥村文男(1)


西山宗因が談林の風を天下に起こした根源地、大阪天満宮連歌所の跡に建立された参集殿にて、百十数年ぶりに奉納連歌を興行いたしました。天満宮の寺井種伯宮司さまや柳野等禰宜さま、近江晴子さまはじめ多くの方々のご尽力に心から感謝いたしたいと存じます。近江さまより大阪天満宮の歴史と連歌資料のご説明をいただいた後、天神名号(後水尾天皇御宸筆)と天神画像(関白近衛信尹公自画賛)を懸け、三つ具足(花瓶・杜若一輪挿し、香炉・伽羅香、匂の花に沈香)を整えた会場にて宮司さまより発句の発声をいただき、歌仙三十六句を無事満尾し内曇懐紙にしたためたうえ、廣青隴氏の朗詠奉納を執り行いました。そののち、扇町近くの「茂楽樹」にて連衆一同の楽しい竟宴となりました。